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第26話 カフェでの対面

Auteur: るるね
last update Date de publication: 2026-03-09 19:08:37

 陽菜は少し困ってしまった。

 どう見ても今は仕事の時間帯だ。

 一条が平日のスケジュールをどう組んでいるのかは知らないが、私的な用事でこの時間に電話をかけるのは、どう考えても失礼な気がする。

 それに、昨夜もすでに一条に世話になったばかりだった。

 陽菜がためらっているのを見ると、月乃はすぐに涙ぐんだ。まるで最初から用意されていたかのように、間髪入れず涙がこぼれる。

 「やっぱりっ……陽菜ちゃんも私を騙すの? 私ってそんなに舐められてるのかな……うぅ……どうしてみんな私にこんなことするの……」

 店員がまたこちらを気にしているのが見え、陽菜は慌てて手を振った。

 「ち、違うよ月乃ちゃん。そうじゃなくて……ただ、一条くんが今仕事中かもしれないって思っただけで、騙すつもりなんてないの。先にLINEで聞いてみるね。電話しても大丈夫かどうか」

 そう言うと、月乃はすぐに何度も頷いた。

 目尻にはまだ涙の跡が残り、せっかく直したばかりのアイメイクがまた少し滲んでいる。

 もし本人が気づいたら、また化粧を直すことになりそうだった。

 運が良かったのかもしれない。

 陽菜が試しにLINEで「通話
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